花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
「今の話に驚きすぎて初リムジンの緊張が吹っ飛んだよ…。」

「お前リムジン初めてなんだ!」

ニヤニヤしながら真宮くんが言う。

「当り前じゃない!庶民はタクシーだって贅沢なんだから!」

「ふーん…。」

少し間をおいてから真宮くんは私に顔を近づけると耳元で『こんなのいつでも乗せてやるよ。』と囁いた。
耳元でそんなことを言われ、びっくりして真宮くんを見ると相変わらず悪戯を企む子供のような顔をしながらこちらを見ていた。

『そういうのは好きな子に言いなさいよ!』と言い返してやろうかと思ったのだが、きっとその彼女もリムジン慣れしている相手なのかもしれないと思い、言うのを止めた。

ホテルに向かう道では至る所で桜が咲き乱れていた。車の窓には車内の様子がわからないようにする為のフィルムが貼られており、見上げると青空に桜が霞がかったように美しく見える青と桜色が綺麗に見えないのが残念だった。そんなことを思うのはこの中で庶民な私だけだったのかもしれない。

制服では目立つからとホテルに着く前にアパレルブランドのショップにより着替えをした。
確かにホテルの庭園で制服を着た学生達がお花見をするのはとても目立つが、それだったら一度寮に戻って着替えてからでもよかったのではと思った。でも、彼らにとって行き当たりばったりなこの感じも遊びの一つなのだ。

「…こんな高い服、私のお小遣いじゃ無理だよ〜。」

「やだなぁー、琴乃ちゃん!何のために男子がいるのぉ〜?」

「そうですわっ!ここは所得を得ている男子に任せるべきですわ!」

「確かにCEOがいらっしゃいますし!それでは遠慮なく選ばせていただきます!」

「みんな…買ってもらう事に慣れ過ぎでは…。」

「ほらぁ〜、琴乃ちゃんも選んでサッサとお着替えしましょお!」

牧野さんは何点か服を選ぶと『はいっ』と手渡してきた。それを見た店員さんが私をVIP用の個室へと案内してくれそこの更衣室で着替えをした。牧野さんが選んでくれた服は女の子らしいデザインが多かった。その中で一番シンプルなオフホワイトのワンピースと薄いブルーグレーのカーディガンを選んだ。更衣室からでるとその服に合わせた靴とバッグを店員さんが持ってきてくれた。

「どうせならお揃いを作りませんか?」

「なら、これ何てどうかしら?」

先に着替え終わった深雪さんと咲良さんのアイディアで桜をモチーフにしたヘアアクセをお揃いで付けることにした。
制服に合わせてきちんと結んでいた髪をほどき、ハーフアップにして二人が選んだヘアアクセをつけた。

「皆さま、素敵に仕上がっておりますね。」

様子を見に来てくれた店員さんが女子4人を見て褒めてくれた。
営業文句だと分かっていても同性から褒められると嬉しい。

「お召しになられていたお洋服は私共の方で整理させていただき、ホテルまでお届致しますので貴重品などはお持ちください。」

そういわれたので、学生カバンからスマホやお財布を取りだし、新しいバッグにしまった。
重い教科書などを持ち歩かなくて済むのはとても助かるが、高校生がやることではないな…。と思った。

支度が終わりラウンジへ行くと男子メンバーがコーヒーを飲んでくつろいでいた。

「おぉ〜!みんな可愛い!」

真っ先に古賀くんが褒めてくれる。

「どうかしら?」

咲良さんが柳くんに聞いてみると照れのせいか咳をするように片手で口元を隠し

「うん、似合ってるよ。」

と、目を逸らしながら返事した。その姿を見て、やっぱり咲良さんの事好きなんじゃん!って思った。
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