花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
レセプション前のラウンジで座っていると黒のスーツにオールバックをした柳くんにそっくりな男性がやってきた。
「修治、晴翔、思ったより遅かったな。」
「兄貴、突然で悪いな。学校の近くでお花見って言ったらここしか浮かばなかった。」
「修作さん、お久しぶりです。」
真宮くんは柳くんのお兄さんと思われる人に挨拶と握手をした。
「兄貴、こっちがクラスメイト達だ。咲良は知ってるからいいか。」
「初めまして。修治がいつもお世話になってるみたいで。これからも仲良くしてやってくると嬉しいな。」
柳くんのお兄さんは学生である私たちに対してもきちんと挨拶をしてくれた。
皆に挨拶を終えるとホテルの中庭へと案内をしてくれた。
ホテルの洋風なイメージとは反対に中庭は日本庭園になっており、瓢箪型した池には錦鯉が泳ぎ赤い太鼓橋などが掛けられていた。
奥の方に進むと大きな古そうな桜の木が数本植えてあり満開を迎えていた。時折風に吹かれて舞い散る桜の花びらがなんとも言えない美しさだった。
桜の木の下に毛氈が引かれた長椅子が用意されており皆で腰を掛けた。
「きれぃ…。」
上を見え上げると自然と声が出た。
「あぁ、きれいだ。」
隣に座った真宮くんからも声が聞こえた。
「僕は琴乃の方がきれいだと思うよ。」
「古賀、お前ってホントこりねぇーな。」
「お二人とも揉めてばかりいないで桜を愛でましょう!」
深雪さんが喧嘩にならないように二人の会話を止めてくれた。しばらく桜を眺めていると修作さんからの差し入れで抹茶と和菓子を出してくれた。
桜を背景に毛氈の上に漆塗りのお盆にのせられた抹茶と和菓子は春ならではの日本の美しさを表しており、桜をかたどったお菓子はとても可愛らしくて食べるのが惜しかった。
「いつ見てもここの桜は綺麗ですわ!」
「咲良さんは春になるとここによく来るの?」
「ええ、柳くんが誘ってくれた時だけね。」
「誘ってくれた時だけって何だよ、毎年連れてきてるはずなんだけどなぁ〜。」
柔らかい笑顔を咲良さんに向けると嬉しそうな顔をした咲良さんが少し意地悪げに
「そうでしたっけ?うふふっ」
と笑った。
二人が交わす視線はどこの誰が見ても相思相愛なはずなのにこれで付き合っていないのが何度思っても不思議だった。
「ねぇ、真宮くん。」
「ん?」
小さな声で呼び止めたので私の方に耳を寄せてくれたので、両手で声が漏れないように真宮くんの耳を覆いながら話す。
「柳くんって、咲良さんのこと好きだよね?」
「…あー。だろうなぁ。」
「柳くんは咲良さんと付き合おうと思わないのかなぁ?」
「修治、本気だからなー。今はまだ準備中ってところじゃねーか?」
「準備中?」
「確実に落としたい相手にはしっかりと準備が必要って事だ。逃げ道を確実に潰す。」
言い終わるとニヤリと笑う。
「ふーん…。」
「俺もしっかり準備しているところだ。だから絶対に逃さない。」
目を見つめながら言われたので、まるで自分が言われたかのように感じてドキッとしてしまった。相手は私じゃない。彼の婚約者に向けての言葉なのに…。
「見てぇ~!花嫁さんがいるぅ~!素敵ぃ~!」
牧野さんが騒いでいる方に目をやると先ほど通ってきた池の太鼓橋に白無垢姿の花嫁さんがいた。
「この庭園と桜を背景に前撮りをする人が多いんだ。」
牧野さんが許可もなく花嫁さんの姿をスマホで写真に収め始めると柳くんが教えてくれた。
「確かに桜は今じゃないと写せないもんねー!」
「きれいですわ…。」
ぼーっと咲良さんは見惚れていた。
「女子はやっぱり花嫁さんにあこがれるの?」
「あたり前よ!古賀くん!私は絶対純白のドレスだけどね!」
「そうですね、牧野さんはドレスの方が似合いそうです。」
納得したように深雪さんが頷く。確かに牧野さんに和装なイメージはない。
「きゃーっ!キスしてますぅ!」
牧野さんが橋の上でキスをする花嫁さんと花婿さんを見て大興奮している。
「牧野さん、キスぐらいで騒がないでください。ウェディングフォトなんですからキスくらいしますよ。」
「えぇ~、深雪さんは彼氏いるから経験あるかもしれないけど、私たちはまだだもぉ~ん!」
ここにいる深雪さん以外の女子は男性と付き合った経験がなかないことはみな知っていた。
「あら、キスなら琴乃さんも経験済みよね?」
「えっ!?琴乃ちゃん彼氏できたのっ!?ずっと彼氏いないって言ってたよね?」
突然こちらに話を振られて驚き固まる。
「お前、どーゆー事だ?」
さっきまで穏やかだった真宮くんの目が鋭くなる。まさか、みんなの前で『あなたに好きな人と間違えられてキスされました。』なんて言えない。あれは完全なる事故だと思う事にし今の今まで自分の気持ちと共に記憶から消すように努めていた。
「…あはは。さて、何のことだか…。」
何とか誤魔化せないかと頭をフル回転させていた時。
「あいつ…。晴翔ヤバいかも…。」
「はっ?柳、何の話?」
「お前ちょっと来い!」
「えっ!?痛いっ!」
真宮くんは私の手首をしっかり掴むと腕を引き建物の中へと向かった。
それを見た柳くんは慌ててどこかに電話していた。
「修治、晴翔、思ったより遅かったな。」
「兄貴、突然で悪いな。学校の近くでお花見って言ったらここしか浮かばなかった。」
「修作さん、お久しぶりです。」
真宮くんは柳くんのお兄さんと思われる人に挨拶と握手をした。
「兄貴、こっちがクラスメイト達だ。咲良は知ってるからいいか。」
「初めまして。修治がいつもお世話になってるみたいで。これからも仲良くしてやってくると嬉しいな。」
柳くんのお兄さんは学生である私たちに対してもきちんと挨拶をしてくれた。
皆に挨拶を終えるとホテルの中庭へと案内をしてくれた。
ホテルの洋風なイメージとは反対に中庭は日本庭園になっており、瓢箪型した池には錦鯉が泳ぎ赤い太鼓橋などが掛けられていた。
奥の方に進むと大きな古そうな桜の木が数本植えてあり満開を迎えていた。時折風に吹かれて舞い散る桜の花びらがなんとも言えない美しさだった。
桜の木の下に毛氈が引かれた長椅子が用意されており皆で腰を掛けた。
「きれぃ…。」
上を見え上げると自然と声が出た。
「あぁ、きれいだ。」
隣に座った真宮くんからも声が聞こえた。
「僕は琴乃の方がきれいだと思うよ。」
「古賀、お前ってホントこりねぇーな。」
「お二人とも揉めてばかりいないで桜を愛でましょう!」
深雪さんが喧嘩にならないように二人の会話を止めてくれた。しばらく桜を眺めていると修作さんからの差し入れで抹茶と和菓子を出してくれた。
桜を背景に毛氈の上に漆塗りのお盆にのせられた抹茶と和菓子は春ならではの日本の美しさを表しており、桜をかたどったお菓子はとても可愛らしくて食べるのが惜しかった。
「いつ見てもここの桜は綺麗ですわ!」
「咲良さんは春になるとここによく来るの?」
「ええ、柳くんが誘ってくれた時だけね。」
「誘ってくれた時だけって何だよ、毎年連れてきてるはずなんだけどなぁ〜。」
柔らかい笑顔を咲良さんに向けると嬉しそうな顔をした咲良さんが少し意地悪げに
「そうでしたっけ?うふふっ」
と笑った。
二人が交わす視線はどこの誰が見ても相思相愛なはずなのにこれで付き合っていないのが何度思っても不思議だった。
「ねぇ、真宮くん。」
「ん?」
小さな声で呼び止めたので私の方に耳を寄せてくれたので、両手で声が漏れないように真宮くんの耳を覆いながら話す。
「柳くんって、咲良さんのこと好きだよね?」
「…あー。だろうなぁ。」
「柳くんは咲良さんと付き合おうと思わないのかなぁ?」
「修治、本気だからなー。今はまだ準備中ってところじゃねーか?」
「準備中?」
「確実に落としたい相手にはしっかりと準備が必要って事だ。逃げ道を確実に潰す。」
言い終わるとニヤリと笑う。
「ふーん…。」
「俺もしっかり準備しているところだ。だから絶対に逃さない。」
目を見つめながら言われたので、まるで自分が言われたかのように感じてドキッとしてしまった。相手は私じゃない。彼の婚約者に向けての言葉なのに…。
「見てぇ~!花嫁さんがいるぅ~!素敵ぃ~!」
牧野さんが騒いでいる方に目をやると先ほど通ってきた池の太鼓橋に白無垢姿の花嫁さんがいた。
「この庭園と桜を背景に前撮りをする人が多いんだ。」
牧野さんが許可もなく花嫁さんの姿をスマホで写真に収め始めると柳くんが教えてくれた。
「確かに桜は今じゃないと写せないもんねー!」
「きれいですわ…。」
ぼーっと咲良さんは見惚れていた。
「女子はやっぱり花嫁さんにあこがれるの?」
「あたり前よ!古賀くん!私は絶対純白のドレスだけどね!」
「そうですね、牧野さんはドレスの方が似合いそうです。」
納得したように深雪さんが頷く。確かに牧野さんに和装なイメージはない。
「きゃーっ!キスしてますぅ!」
牧野さんが橋の上でキスをする花嫁さんと花婿さんを見て大興奮している。
「牧野さん、キスぐらいで騒がないでください。ウェディングフォトなんですからキスくらいしますよ。」
「えぇ~、深雪さんは彼氏いるから経験あるかもしれないけど、私たちはまだだもぉ~ん!」
ここにいる深雪さん以外の女子は男性と付き合った経験がなかないことはみな知っていた。
「あら、キスなら琴乃さんも経験済みよね?」
「えっ!?琴乃ちゃん彼氏できたのっ!?ずっと彼氏いないって言ってたよね?」
突然こちらに話を振られて驚き固まる。
「お前、どーゆー事だ?」
さっきまで穏やかだった真宮くんの目が鋭くなる。まさか、みんなの前で『あなたに好きな人と間違えられてキスされました。』なんて言えない。あれは完全なる事故だと思う事にし今の今まで自分の気持ちと共に記憶から消すように努めていた。
「…あはは。さて、何のことだか…。」
何とか誤魔化せないかと頭をフル回転させていた時。
「あいつ…。晴翔ヤバいかも…。」
「はっ?柳、何の話?」
「お前ちょっと来い!」
「えっ!?痛いっ!」
真宮くんは私の手首をしっかり掴むと腕を引き建物の中へと向かった。
それを見た柳くんは慌ててどこかに電話していた。