花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない
突然の告白に驚き、コーヒーカップを落としそうになる。こぼしては大変と思ったのか、私の隣に座り直しカップを受け取りテーブルに置いてくれた。

「えっ!?誰が誰を好きって言ったの!?」

「だから、俺の好きな女はお前だよ。だからお前が誰かとキスしたって聞いて嫉妬して独り占めしたくなったんだ。」

思いもしない言葉が彼の口から出る。真宮くんが私とキスした相手に嫉妬したと言うのだ。

「どういう事!?前に古賀くんにインタビューされたとき一年前に出会った好きな人がいるって…。」

「だから、それはお前のことだよ。初めて会った時から好きだった。」

初めて会った時から好きって、ずっと私の事を好きでいてくれたってこと…?私が転校してくる前から好きってアレはバレない為の嘘?

「…そんな。でも、古賀くんには私に婚約者がいるから諦めろって…。」

「そんなの口実だよ。お前に近づいてほしくなかっただけ。お前を独り占めしたいから文化祭でミスコンにも出た。」

「あれって、私が出場するのを頼まれて困ってたからじゃ…。」

 ただの親切じゃなかったの?

「お前がミスコンに出たら絶対にライバルが増えると思ったから恭介に出場しなくて済むように頼みに行ったのに、アイツ全く話聞いてくれなくて…。仕方なく俺が出た。」

「クリスマスに好きな子に会えたって話は?」

「お前とツリーの下で会えただろ?」

「…そうだけど。」

好きな子と会えたって嬉しそうにしてたのは私があそこにいたから?

「質問は俺が1番したいんだけど?お前は誰とキスしたんだ?俺が知る限り転校してくる前も今も恋人はいないはずだが?」

あの時保健室で『俺も大好きだ』って、私に向けて好きって言っていたって事!?
思い出したら恥ずかして耳まで赤くなった。

「お前は恋人でもない奴とキスするのか?」

絶対に秘密にしておこうと決めていたが、彼の好きな相手が自分だと分かった今なら本当の事を話しても傷つく人は誰もいないのかもしれない…。

「私がキスした相手は…。真宮くんだよ。」

おそらく真宮くん程の天才でも予想し得なかったのだろう。目をまんまるく見開き私を見て固まってしまった。

「バレンタインの日に、真宮くん熱出して倒れて保健室で寝てたじゃない?」

「…ああ。」

「その時、柳くんに頼まれて荷物を届けに行ったの。」

「もしかして、あの時の…。」

「お…覚えてるの?」

「いや、覚えてるって言うか…。ごめん、夢だと思ってた…。」

「うん。そんな気がしてたからずっと黙ってた。その時『俺も、大好きだ。』って言ってたから、てっきり寝ぼけて好きな子と私を間違えてるんだと思ってて…。」

「…ああ、寝ぼけてた。でも、夢に出てきたのはお前だ。俺、どんな風にお前にキスした?」

「…どんな風にって…。寒いって言うから、掛け布団を掛け直してあげてたの。そしたら、目を開けて微笑んだと思ったら突然頭に手が回って…。それで、引き寄せられて…。」

「ふーん。それってこんな感じ?」

ニコッと微笑むと私の後頭部に手を回して目を閉じると優しくキスをした。

 避ける隙なんてなくて…。

 目をつむる余裕なんかもなくて…。

 嬉しいけど、恥ずかしくて…。

 耳に心臓が移動したのかと思うほどドキドキしていた…。

「めちゃくちゃお前のこと好きになっちゃったんだけど。どうしてくれる?」

ゆっくり唇から離すと額をくっつけ甘く問う。

 私だって真宮くんの事が好きだけど…。
 婚約者の事だってある。私ひとりじゃ決められない…。

「婚約者がいる私には何もできないよ…。」

「関係ない、お前は俺のことを好きになるだけでいい。」

「真宮くんだって婚約者がいるって聞いたよ。」

「問題ない。俺が好きなのは琴乃、お前だ。」

ニヤリと笑い、私を抱きしめる。

「…ったく、今まで計画通りうまくやるはずだったのに今日は大失敗だ…。」

私の髪を撫でおろしながらつぶやいていた。
キスされた余韻と抱きしめられると彼のシトラスの匂いが濃くなり頭がくらくらする。
ずっとこのまま抱きしめられていたと思ってしまうほど…。

プルップルプルッ。
部屋に設置された電話がどこかで鳴り始めた。
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