シルバーブロンドの王子様が甘すぎる〜海を越えた子守り唄
気を失いそうになる彼をなんとか立たせ、体を支えながら辿り着いたのは、ラブホテルの一室。ビジネスホテルだと彼の格好で断わられるのは火を見るよりも明らかだったから。
ホテルに入る前にキャリーケースは駅のコインロッカーに預け、コンビニで当面必要になりそうなものを買い込んでおいた。
コンビニに男性用の下着やシャツまで売ってたのはびっくりしたけど、助かる。
ベッドに寝かせた男性の上着やシャツを脱がせて、洗面器に張ったお湯でタオルを湿らせ、体を拭っていく。最初に顔を拭いたときに、意外と若い男性だったと気づいて驚いた。しかも、結構整った顔立ち…。
彼の苦しげな声でハッと我に返り、慌てて作業を再開した。
びしょ濡れのシャツと下着を脱がせて、無心になって体を綺麗にしていく。さすがに下は……経験がないから、恥ずかしくて。目を瞑りながらなんとかこなし、新しい下着とシャツとズボン(というかズボンがなかったからステテコみたいなズボン下)をはかせ、布団を被せたら、汗だくになってた。
すごい熱だからオデコに冷却シートを貼って、栄養ドリンクを飲ませる。
苦しげな彼は、乱れた呼吸でまた呟いた。
「イル、タゥート、デマス…」
また、この言葉…。
でも……なぜだろう?
綺麗な、懐かしい言葉。
わたしのなかのあの海の思い出が、自然と口を開かせた。
むかし、むかしの…懐かしい記憶。
栗色の髪の毛の美人さんが歌っていた歌詞を、なぞる。
暖かな微睡みの中で聴いた、やさしくなつかしい歌を。
不思議なことに男性の苦しげな顔は次第に和らぎ、呼吸も落ち着いていく。そして熱も下がっていき、気がついたら朝になって…安心したわたしはそのまま睡魔に意識を奪われた。