シルバーブロンドの王子様が甘すぎる〜海を越えた子守り唄
カイルは光輝に会いに行ってもいい、と言ってくれた。ただ、マリンの同行だけは条件として。
光輝が指定してきたのは、クリスマスイブの日。場所は数十年前に潰れた廃工場の敷地内。
空はあいにくの曇り空で、今にも雨か雪が降りそう。
送迎の車から降りて、マリンと2人で歩く。
スマホに送られた地図の通りに進めば、錆びてボロボロになった建物の間に唯一頑丈そうな資材置き場が見えてきた。
「いかにも“なにか企んでます”ってわかりやすいシチュエーションね」
怪物の鳴き声のような風鳴りが、寒さよりもわたしの身体を震わせる。マリンが来てくれなきゃ、もしかしたら逃げ帰ったかもしれない。
「ありがとう、マリン…付き合ってくれて。すごく心強い」
「ま、まあね!御主人様の大切な人ですから」
ほんのりと頬を染めた彼女はかわいい。だから、ホッとして懸念を口にした。
「最初、冷たかったから…嫌われてると思ったの。もしかしたら、カイルのことが好きなのかと…」
「ストップ、ストップ!あたしはアベル一筋よ!絶対、絶対アベルだけだからね!」
なぜかマリンは必要以上に声を張り上げて、わたしをブンブン揺する。
「あれはごめんね。だって、カイル様に取り入ろうとする女が多かったから。あたしは陛下に直々に頼まれたし……」
「陛下?」
わたしがオウム返しをすると、マリンはやっちゃった!と言わんばかりに口に手を当てた。
「ごめん、今のオフレコ!忘れてー!!」
だから、誰に話してるの?マリンは…。