【続】酔いしれる情緒


考えれば考えるほど嫌な予感がして


店の方ではなく、来た道、その道に戻った。


走って、走って。

時間も暑さも気にならなくて。


家に着いた時にはもう、顔も髪も心もぐしゃぐしゃだったと思う。


けど。


玄関で春の靴を見つけて



「───あれ、凛?」



リビングにいる彼をこの目にちゃんと映した時、



「春…」



何もかもがどうでもよくなって


心の底から安心した。



だからなのか、もしくはここまでずっと走ったことによる疲労からなのか分からないけど、

足の力が抜けてその場に崩れ落ちてしまうと、春は「凛っ!?」と大きな声を上げて駆け寄ってきた。



「どうしたの!どこか痛い!?」

「違っ…くて」

「汗もかいてるし…!」



何か拭くものを、と。


タオルか何かを取りに行こうとした春だけど、私は彼の服をキュッと掴んでそれを阻止。



「………………」

「凛…?」



早く行かないと、遅刻だ。


遅れたら、店に迷惑を掛けてしまう。



だからこそ、

早くこの手を離して行かなきゃならないのに



「…む……」

「え?」



ダメだと分かっていても


心が、身体が、彼に惹き寄せられてる。



今から店に向かったところできっと間に合わない。


じゃあどうする?

考えているこの時間が無駄だ。



このままここに居れば

今日はずっと一緒にいられる。




「仕事…休む……」




春を独り占め出来るんだから。

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