【続】酔いしれる情緒


「………もしかして、脅されてる?」



その途端、春の目付きが細く鋭くなった。



「ううん。そんなんじゃなくて」

「自分が何されたか分かってんの?」

「………、……分かってるよ」



あの時のことを思い返すとゾッとする。


自然と顔が歪んでしまう。


春もそんな私に気づいたのか「あ……ごめん」と、自分の発言を反省しているみたいだった。



「……確かに一花さんは許されないことをしたと思う。警察に頼るのが正しい判断だとは思うけど、今はまだ……警察には言わないでほしい。」

「……………」



分からない。その言葉が顔に現れているような、春は私に怪訝な表情を見せている。


私だって。自分が今おかしなことを言っている事くらい分かってる。


けど



「一花さんは異常だった。異常な程にアンタのことを愛してる。今ここで警察に受け渡したとしても彼女の気持ちはこの先きっと変わらないし、時が経ってもまた同じことが繰り返されると思う。もしくは…あれ以上のことを……」



今度は本当に死んでしまうかもしれない。


私、あるいは…春が。


彼女の異常な愛で殺されてしまうかもしれない。



この危機感は、

あの場に居て彼女の気持ちを知ったからこそ分かることで。



「春、お願い」



春の手をキュッと握る。


そこにぬくもりはなく、ひやりと冷たい手。



「今の一花さんはアンタの言葉しか響かないから」

「………………」



名前を出しただけで不愉快そうに表情を変える彼。



彼女が憎い。


そんな顔を見せる彼に



「逃げないで、彼女と話をしてほしい。」



私は心からそうお願いした。

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