【続】酔いしれる情緒
エレベーターを下りて一花さんの部屋に辿り着くと春は戸惑うことなく中に入り、迷うことなくズンズンと先を歩いてく。
(…ああ、そっか。)
過去に来たことあるんだ、この家に。
その姿を後ろから眺めながら私はそんなことを思ってた。
配置も何もかも覚えていて、まるでこの家に慣れているかのような。
そんな姿を見せられては一花さんとの過去を再び知らされる。
(春は、ここで一花さんと何度も───…)
過去のことだと分かっているのに、未だ受け入れられなくて、やっぱり苛立ってしまう。
こんな気持ちになるくらいならここに来るべきじゃなかった?
私はあのまま病室で待ってれば良かったのかな。
それとも、もう誰とも関わり合わなくて済むように、春と一緒に遠くに逃げれば良かった?
先に進むたびに、少しずつ後悔した。
会わせていいのかな。
会話をさせていいのかな。
そうしたところで解決するのかな。
これから起こることなんて全く予想できない。
けど、
(……私が一花さんの立場なら、会話が出来ただけでもすごくホッとする)
私と同じで春に依存する彼女なら
きっと同じ気持ちになるはずだ。
二人の会話を見て嫌な気分にはなるかもしれない。
けど、少しでも進展出来ればいい。
この判断は間違っていないと、これから先は嫌でもそう思うようにしよう。
きっと、良い方向に向く。