【続】酔いしれる情緒
「あんな事があった以上、もしかしてって、最低最悪な事まで考えた。ここに来るまでどれほど不安だったか、いつも勝手な行動に出るアンタには分からないでしょうね」
「………………」
黙っている春は私の話を聞いているのかいないのか。
目が髪に隠れて見えない。
強くは叩いていないけど、痛みはそれなりにあったと思う。
私の手もちょっと痛かったし。
「ねえ、聞いてる?」
「……………」
「……………」
「……………」
春は黙ったままだし、ここにいても埒が明かなさそうだから春に向かってもう一度手を伸ばした。
「………話は車の中で聞く。
橋本さんも心配してるし早く戻るよ」
なのに
「……春?」
手に触れる前
彼は後ろへ身を引いた。
まるで避けるみたいに。
なんだ?
さっきビンタされたからって怒ってるのか?
もしくは拗ねてる?
呆れて溜め息が出そうになった。
子供じゃないんだから。と。
「……春」
もう一度名前を呼ぶ。
すると彼の瞳、色素が薄くてとても綺麗なその目に私の姿が映る。
………あ、れ?
殴られたからって怒ってる顔じゃない。
拗ねてる顔でもない。
その顔はこの場所に来るだけあってどこか疲れているようにも見えるけど
「これ以上、凛を巻き込みたくない」
彼はふわりと柔らかい笑みを浮かべてた。
全てが吹っ切れたみたいに。