【続】酔いしれる情緒


「あー……もう、どうしたらいいんだろう…」



耳元でそう呟く春は酷く困っているような。



理由は分かってる。


遠回しに離れたいと言いながらも、春は今、その腕の中に私を閉じ込めてるから。



「あの件はもう終わったよ」

「……うん。けど、この先また同じようなことが起きないとは言い切れない。俺があの仕事をしている限りはずっと。だから───」



その瞬間、春はハッとした顔を見せた。



「そっか、辞めればいいのか。」

「え?」



今、なんて言った?

とんでもないことが、聞こえたような。



恐る恐ると顔を上げると

そこにいる春も私に視線を向けていて
バチッと目が合うが、


聞き返す暇もなく、春は言う。



「俺、芸能界辞めるよ」



唐突すぎて目を丸くする私に対し、春は笑顔。



いや、まあ、


さっきの苦しそうな表情より
今の方が断然良い、けど。



「そうすれば……

何の心配もなく、凛の傍に居られる」



辞める理由がそれだとすれば

だいぶ話が変わってくる。
< 192 / 246 >

この作品をシェア

pagetop