【続】酔いしれる情緒
「そうと決まれば話は早いね!」
唖然とする私に対し春はにこやかに笑ってポケットから携帯を取り出した。
その画面を見た春は「あ、橋本さんからだ」と呟く。
どうやら今、春の携帯にちょうど橋本からの着信があったらしい。
(なんてタイミングでかけてきてんのあの人…!)
その電話が繋がった瞬間、春に芸能界辞める宣言をされるとは確実思っていないはずだ。
何も知らない中で電話をかけている橋本。
告げられた後の顔が想像つく。
「ちょっ…まって!!」
慌ててその携帯に手を伸ばすが、春は私が止めに入ることを元から分かっていたみたいに携帯を届かない位置まで上げてきた。
背伸びをして必死に手を伸ばすも届かない。
くそ!身長差!!!
「なんで止めるの?」
「なんでって…!そう簡単に決めていいことじゃないからよ!」
「真剣に考えたんだけどなあ」
「どこが!!!」
そしてもう一度腕を伸ばす。
あと、もう少し。
「だってさー」
この時私は春の顔なんか見てなくて
全意識はあの携帯にあって
「っ、!」
春のもう片方の手で顎を捕まれ、強引に顔を合わせられた時にようやく気がつく。
「凛もそれを望んでるでしょ?」
春の顔がやけに真剣だったことを。
その顔、その発言を耳にした途端
心臓がドッと嫌な音を立てた。
ちょっとだけ冷や汗もかいた。
「な…に言って…」
身体の力が抜けたみたいに伸ばしていた手がゆっくり下へ落ちて足が1歩後ろに下がる。
だが、逃がしてくれないのがこの男。
私の顎を掴んだままグッと引き寄せ、顔をジッと見つめてくる。
いや、顔というよりも、目だ。
春はその色素の薄い瞳で私の目を見てる。
「凛ってさ、意外と分かりやすいよね。
今もそう。そうやってスグ顔に出る。」
「っ………」
「隠してるつもりだろうけど、結構バレバレだよ」
ハッキリとそう言われて身体はカッと熱くなった。
顔を隠したい。
けど隠せない。
春が邪魔をする。