【続】酔いしれる情緒
「………、どうかした?」
春のどこか優しい声が鼓膜に響く。
俯く私にきっと心配しているだろう彼。
この先、もう泣くことは無いと思ってた。
だってずっと一緒にいられるんだから。
悲しみは無縁になると思っていた、のに。
「………っ」
なんで今
私
泣きそうになってるんだろう。
涙を堪えようとキュッと下唇を噛む。
だが耐えきれず溢れ出た涙がアスファルトの上を濡らした。
泣いていることはきっと目の前にいる彼にもバレているだろうから、もう隠す気力はなく、手で目を何度も擦った。
こんなにも涙が出るのは久々かもしれない。
言いたいことはいっぱいあるのに上手く話せないし。
今の思いを言葉にしようとするも、その度に感極まって涙が出る。
あーもう、どうしたものか。
一旦持ち帰って後日話をしたいくらいだ。
このままじゃ春も私が何を言っているのか何を言いたいのか分からないだろうし。
「ちょっと、まって…っ、」
春に背を向けて何度か深呼吸した。
これだけで涙が治まる気はしないけど、少しでもいいから心を落ち着かせたかった。
(そうだ、波の音を聞けば……)
春にこの場所を教えてくれた時も妙に心が落ち着かなくて、癒し効果があるはずの波の音を必死に聞いたっけ。
確か……その効果はあったはずだ。
あの頃も、今も。
波の音のおかげで次第に心は落ち着いていく。
が。
「大丈夫、ゆっくりでいいよ」
ふわり。
後ろから優しく私を包み込む、春。
ああ、また。
あの頃と、同じ。
落ち着かせていた心を 春がまた乱すんだ。