【続】酔いしれる情緒


「…っ……」



涙が頬を伝う。


けど拭うことなく、手は私を包む春の腕に触れた。



「わ…たしも…っ…」

「うん」

「春が、好き。大好き…」

「………うん、知ってるよ」

「だけど…」



一度、息を吸って。



「それと同じくらい…本に囲まれてるあの場所も、本屋で働く…あの時間も、好き。
好きだから、ずっとあそこで働いてきた」

「……………」

「ねえ、春…」



手にキュッと力を込める。



「春だって本当は………

今の仕事を、続けたいんじゃないの?」



そう問いかけた瞬間、春の手が小さくピクリと反応した。


同じくらい好きだと言ったけど、実際は、春に対する気持ちの方が上だ。

本に関わる時間はその次。

こうでも言わないと
春は正直に話してくれないだろうから
私は小さな嘘をついた。



「春、言ってたよね?アメリカから話がきてるって。それって、オファーを受けてるってことでしょ?しかも、海外から。

その世界のことはよく分からないけど……海外からオファーを受けるって、どれほど凄いのか。私でも分かる。

その仕事を続けるにあたって、今後絶対に捨てちゃいけない話だってことも……」



辞めて欲しい。なんて思っていた私が今じゃ春に仕事を続けるよう勧めてる。


春が私以外の誰かに触れるところなんてもう見たくないのにな。


ほんと、おかしな情緒だと思う。


けど私達は夫婦。

繋がりを切るのは簡単だと春は言うけど
そう簡単には切らせたくないし、切りたくない。



「自分の人生なんだから、好きなことを好きなだけやっていいんだよ。」



この先もずっと、永遠に

春のそばにいるつもりなら


彼の仕事をちゃんと理解し、受け入れ、


そして彼の役者としての姿を



「どの道を選択したって
私がアンタを嫌うことは絶対にない。

正しい道を、選んで欲しい。」



私は今後、見慣れるべきなんだ。

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