【続】酔いしれる情緒
ずっと想っています。
昨日は人生で1番と言っていいほどの濃い1日だった。
あれから数時間後。
春は橋本のところに戻っていった。
春のテンションは少し低めだったけど、まあ仕方がない。
「距離を置こう」と言った時は私も心が苦しかったし。
元いた場所に戻って2人して怒りに満ちた橋本の前に立てば橋本は「え、なにがあった?」って。
目がパンパンに腫れている私と春のテンションがやけに低いことから、キレられるよりも先に何故か心配されてしまった。
喧嘩したとでも思っているんだろう。
その後春は橋本に怒られたのかどうか。
橋本に「春と2人で話をさせてくれ」と言われたとき、私はその意図を完全には理解できなかった。
おそらく怒られているんだと思うけど。
とりあえず私は用済みとなってしまったみたいで、由紀子さんの運転する車に乗り、先にあの家に戻ることになった。
久しぶりの我が家に到着すると身体の疲れと泣きすぎたことによる疲れが襲いかかり、ベッドに身を任せるようにすぐに眠りに落ちた。
眠りは、まるで私を包み込むように早く深く、時が止まったかのように。
(寝ちゃダメ……起きてなきゃ。店主も心配してるだろうし……早く連絡しないと)
いろいろとすることはあるのに、気力が湧かなくて。
目が覚めた時には既に空は明るかった。
「………重い」
そしてお腹辺りに感じる違和感。
隣を見るとそこには眠る春の姿があった。
お腹の上には春の腕が置かれていて
まるで逃がさないとでもいうみたいに
しっかり捕まえられてる。
(いつ帰ってきたんだろう…)
見た感じ、服装は昨日のままだ。
まあ私もそうなんだけど。
隣で眠る彼は、静かすぎるくらいに息を潜め、目覚める気配はまったく感じられない。
春も私と同じく疲れがたまっていたのだろうか。それとも、橋本によって解放されたのはついさっきだったのかもしれない。
分からないけど、まあ、起こす気はない。
このまま寝かせてあげようと思って自分に掛かっていた毛布を彼の上に軽く掛け直した。
私は眠る彼を見守りながら静かに息を吐く。
この場所には、かつて壮絶な事件が起こったかのような雰囲気は微塵も漂わず、静穏な時間が流れていた。
私は春を幸せにしたい。彼が幸福に包まれるように、私は手を尽くしたいと思う。
そう心から願い、その願いを込めて微笑みを浮かべた。
距離を取る。この決断がどうか彼の心に平和と幸福をもたらしますように。