【続】酔いしれる情緒
少しして、私は朝食を作るためにベッドから降りた。
春の腕から解放された瞬間、なぜだろう、心身ともに軽やかな感覚が広がってく。
身体の重さが一気に軽くなり、呼吸が深くなった気がした。
この感覚は、何?
まるで、胸の奥に積み重なっていた重荷が一気に解放されたかのような。
(もしかして……)
春に対する悩みが減ったから、か?
以前は彼のことで常に頭がいっぱいで、彼の行動や言動に翻弄されたり気持ちを揺さぶられたりと、心を揺るがすことが多かった。
けど、今は違う。
春に対する悩みが消えたことで、心の重荷が軽くなった。
そして自分にとって大切なものが見えてきたような、気持ちの整理がついたような感覚。
なんだか少しだけ清々しくて、新たなスタートを切ったような気分だ。
そんな気分のままベッドルームを出てリビングに向かい、一杯の水を飲む前に私はふと思い立つ。
(リビングの窓って……開けたことあったっけ)
思い出せる限りでは一度も無いはず。
いつの間にか、閉め切ってた。
それは「冷房も暖房も自由に使えるから」という単純な理由ではなく、
欲にまみれて、私は無意識にその窓を避けていたのかもしれない。
密封された空間で春と二人きりになること。
邪魔されることなく、私達だけの特別な空間。
それは、以前の私にとって何よりも貴重なものだったから。
(まあ…誰かしら中に入ってきたことあったけど)
昔のことを思い返しながら
私は手を伸ばし、窓の取っ手に触れる。
そしてゆっくりと窓を開けると
「っ、………」
風が心地よく髪を靡かせて、爽やかな空気が私を満たしてく。
この時、なんだか私は自分が生きていることを実感して、また泣きそうになってしまった。
昨日あんなに泣いたのに……まだ泣けるのか、私は。
目の腫れは相変わらず引かず、瞼を開けるのも容易ではないまま、外の景色を眺める。
外は明るく、まるで陽光が部屋に注ぎ込むかのように眩しく輝いていた。
朝食の準備をしようと思っていた私は、窓から差し込むその暖かさに誘われ、無意識に窓辺に座り込んだ。
三角座りをして、ぼーっと外を眺めて。
部屋の中には心地よい風が流れ込み
私の身体を優しく撫でていく。
その感触は、まるで春の手に優しく撫でられているような感覚だった。
その気持ちよさに、再び眠りの波に飲まれそうになる。