【続】酔いしれる情緒


「……春」


名前を呼んで、彼の手を優しく握る。



「自分の可能性を追求するためには、時に大きな決断が必要になるの。それが自分の夢や目標に繋がっていくなら尚更。」



私は春に向かって言葉を紡ぎ、彼の目を見つめる。



「言ったでしょ。後悔してほしくないって。自分が今やりたいことを全力で取り組んで欲しい。それが私の春に対する望むことだよ」



微笑みながら、彼の手を握りしめる。


私もあの日、大きな決断をした。


名前も性格も知る由もない相手に、半ば強引に誘われた同居生活。


もちろん最初は躊躇したけど、とある本の帯に書かれた言葉を目にした瞬間、私は何かに引き寄せられるように決断したんだっけ。


今となればあの選択は間違いではなかったし、寧ろ正解。

何事も行動しなければ始まらないことを私は学んだのだ。



「……あと。勘違いしてるみたいだけど、春が自分の夢を追いかけたとしても私たちの関係を損なうことはない。私たちが互いに信頼し合っていれば、距離があっても繋がっていられるんだよ」



彼の手は、私の手にしっかりと絡みついて



「だから大丈夫。私たちの関係はこれからもずっと続いていくから、安心して。」



春の瞳は、私の言葉に応えるように、輝いていた。


もう二度と複雑で揺れ動く想いに振り回されないように、彼と一緒に私も成長していこう。

不安に囚われることなく、彼と共に歩んでいける自信を持って。



春は、私の言葉に安心したように微笑んだ。



手を握り返しては穏やかな笑みを浮かべる彼。


それにつられて私も笑顔を浮かべる。




私たちはそこで静かに笑い合った。

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