【続】酔いしれる情緒
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「ほんっっっとうに、すみませんでした」
私は頭を深く下げ、紙袋に入った菓子折りを店主の前に差し出す。
場所は、私の職場である、あの本屋。
店主はいつものようにパソコンのある席に座っていた。
「出勤日にも関わらず無断で休んだり急にいなくなったり……迷惑を掛けて、本当にすみません」
私は店主の目を避けて恐縮そうに低い声で「これ…よかったら」と呟く。
店主は少し驚いたように顔を上げると
私が差し出した紙袋を手に取った。
「………………」
呆れられることは分かっているし、辞めろと言われても仕方がない。
迷惑を掛けてしまった。
その代償はちゃんと受けるつもりだ。
店主は一度袋の中身を確認すると
しばらくそれを見つめた後、
「おお!このお菓子好きなんだよね〜」
「…………え?」
「こんなに貰っていいの?」
店主は微笑みながら喜びに満ちた表情で中身をじっくりと眺めていた。
「独り占めしたいところだけど従業員みんなにも配らないとね」
「あ…お願いします…?」
「ところで、来月のシフト出てないのあと安藤さんだけなんだけど今日出せそう?」
店主の今まで通りな感じに思わずポカンとしてしまう。
だって私、ここに来るまでの間色々と覚悟をしてきたんだから。
なのに想像していた感じとは全く逆な事が起こっている。
「ちょ…ちょっと待ってください」
「ん?」
「…解雇しないんですか?」
戸惑う私。
店主はさっき渡したお菓子を食べ始めているし。
なんだかとても、呑気だ。
「なんで?」
「いや、なんでって……」
何か、試されてる?
疑いの目を向けてみるけど、いや……それはないな。
だってこの人、2個目食べ始めた。