【続】酔いしれる情緒
「無断欠勤に無断で早退したりだとか……働かせてもらってる身として、それは許されないことだと思います」
「まあ確かにそうだ」
「なので…」
「でも辞めて欲しくないんだよね」
2個目を食べ終えた店主はお菓子が入っていた袋(ゴミ)を綺麗に畳み始める。意外とこの人、几帳面なのかも。
「実際、安藤さんが無断欠勤した時はもちろん困ったし驚いたよ。「あの真面目で責任感のある安藤さんが」って従業員も口を揃えて言うくらいにね」
「………………」
「ほんと大変だった。
品出しは追いつかないし発注漏れは起こるし。
業務は全くスムーズに進まないし。
もうずっとてんやわんや。
だからさ、まぁ〜…」
店主は頭を掻いて、深くため息をつく。
「そのお陰で再度気付かされたよ。このお店としても安藤さんは必要不可欠だし、いてくれないと困る。だから許されないことだっていう自覚がちゃんとあるなら、もうそれでいいんじゃないかな。」
「……って、頼りない店主はそう思うけど。」と、店主は自虐を含みながら微笑んだ。
「……甘すぎませんか?」
「そう?でも、みんな同じこと言うと思うよ」
「……………」
「あ、ほら。あの子だって」
と。店主がこの部屋の出入口を指さしたかと思えば、そこのドアはまるで予言されたかのように静かに開き、
「おはよっす〜………ん? あっ!」
私の姿が視界に入ると、彼は大きな声で叫んだ。
「安藤さん!!!!」
「慎二くん…」
「もーマジで何してたんすかっ!!みんな心配してたんすよー?」
プンプンと怒っているように見える慎二くんは少し早歩きで私の元にやってくると、
「……何すか?その菓子折り」
「ああ、これ?安藤さんがみんなにってくれたんだよ」
「へ〜……って」
慎二くんは目を丸くさせ、私の腕をガッシリと掴んできた。唐突すぎて私の目も丸くなる。
「まさか辞めるんすかっ!?」
「えっ」
「だって今日出勤日じゃないっすよね!?なのに菓子折りを持ってくるなんて……」
「や、ちょっとまって」
「安藤さんがいなくなったら俺は誰を頼りにしたらいいんすかっ!」
キーンと耳をつんざくような大声で慎二くんが叫び、私は顔をしかめた。
(う…うるさい……)
店主と目を合わせると、店主はこーなることが分かっていたみたいに両手で耳を塞いでた。「ね?言ったでしょ」と、私にそう言いたげな顔をして。
(想像していたのと全く違う……)
あんなにも迷惑を掛けてしまったのに。
辞めさせられても当然だというのに。
それでも居ていいと思ってくれているなら、私も居心地のいいこの場所で働き続けたいと思ってる。