【続】酔いしれる情緒
「マジっすかぁ!!?」
「……………」
「あのテレビ見ない安藤さんまでもが!!」
「うるさいなぁ…」
「一ノ瀬はやっぱり凄いっすねぇ!!!」
「(ほんとうるさい)」
耳がキーンとなるくらいうるさい。
迷惑だと言わんばかりにジロリと睨むと、ギャーギャーと騒がしいコイツは目前の棚に手を伸ばす。
そしていくつかのDVDを取り出すと。
「オススメはこれとこれっすかね!」
「……は?」
「こっちは一ノ瀬櫂の良さが十分に出ていて〜こっちは顔面の良さが味わえる作品っす!」
「いや、あの」
「とりあえずこの二作品は観た方がいいっすよ!」
と言って。私に2枚のDVDを手渡してきた。
「あ。俺そろそろ行かないと。じゃあまた仕事中にでも感想聞かせて下さいね〜!」
「あっ」
慎二くんは満足した様子で出入口へと向かって行った。若干足取りも軽く、スキップしてるし。
アイツは一体何しにここへ?
そう怪訝に思うも、慎二くんはレジ前を横切る際に大きなカゴへ何かを入れてから出て行った。それが何かは、この2枚のDVDを借りた際に知る。
(借りるなんて一言も…)
言ってはいない、が。
私がこの場所に来たのも、
この本を仕事終わりに買ってしまったのも。
全ては1人寂しいあの空間で少しでも春の存在を感じたかったのと─────
(……これを見て慣れていかなきゃ)
彼の仕事を、ちゃんと受け入れるため。
役者として活躍する彼が私以外の誰かに触れる場面があるたび私の心は嫉妬に覆われそうになる。
けどそれはただの自己中心的な感情だ。
そんな感情で、今後春の仕事を妨げたくない。
彼が演じる役柄には、時には愛を示す行動や悲しみや怒りに満ちた表現が必要だってこと。
それを結婚する前から理解してなきゃいけなかったのに、私はまだ足りていなかった。