【続】酔いしれる情緒
もうあなたしか見えません。


「うわぁ…」



どうしよう。ついに来てしまった。


海外旅行初。
そして初上陸、アメリカへ。


まだ空港だとしても思わずキョロキョロと何度も周りを見渡してしまう。



(英語ばっかり…)



いや、そらそーだろって話なんだけど。


ここに来るまでの間少しは英語の勉強をした。といっても、挨拶だとか簡単な程度。だから今視界の中で読めないものは山ほどある。



(確か……この辺り、だよね…)



そんな中、指定された場所であるここで私はキャリーバッグを片手に待つ。


本当にここで合っているのだろうか。
間違ってたらどうしよう。


不安もあって落ち着かないし、ずっとソワソワ。

思っていたよりも早く到着し、予定の時刻までまだあるけれど、知らない土地に1人。不安ばかりが募ってく。



(とりあえず座って待ってよう…)



そう思って近くのベンチに座った。


人気の多いこの場所。このまま再会出来ずに一日が終わってしまったら最低最悪だ。



考え始めるとまた不安になって俯きがちになる。


春と遠距離になっていた時間は長いようで短かった。

その期間の間はお互い仕事を優先して、好きなことをして。休みの日にはたまにあの海を眺めに行って。

夏になったら一緒に海水浴に出掛けたいなー、とか。そんなことを考え始めると止まらなくなって、前以上に一緒にしたいことリストが増えたと思う。

まあこんな話を本人にしたら「ずっと俺のこと考えてたんだ?」とかなんとか言って調子に乗りそうだけど。


もちろん私はアンタのことばかり考えていたし、早く会いたかった。

そしてようやく会える日がきて、今日までどれだけワクワクしてきたことか。

ちょっとだけ緊張もしてるし。


だけど、いろんな感情が入り交じっている中で不安も少しだけあった。

それは、彼がこの場所でちゃんと結果を残せているのかどうか。

現状を言うと、私はまだ何も知らない。
何の情報も持ってない。

今までテレビでも本屋でも彼の姿はほとんど見られなかったし。

海外で活動中なんだから仕方がないことだけど、やっぱり心配だってする。

あの時、背中を押して良かったのだろうか、と。



(……会う前に何考えてんだろ)



過去の事を今反省したところで現状は変わらないのに。


また少し俯き、目線の先は足元。


行き交う人々が沢山いる中で

ふと、私の前で誰かが立ち止まった。



「おねーさん」



どこか懐かしく、聞き慣れた声と共に。

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