【続】酔いしれる情緒
その声にパッと顔を上げると、
視界に映るのは深く帽子を被った彼の姿。
「元気ないね。どーしたの?」
「っ………」
クイッと軽く帽子をあげて見せた彼は
私にだけにあの頃と変わらずの笑みを見せて──
「慰めてあげようか?」
そう言って手を広げる彼の元に
私は人目を気にすることなく飛び込んだ。
春だ……春がいる。
なんだかもう、夢みたいだ。
今の感情を態度で表すかのように私は春を力いっぱいに抱きしめた。
そんな私に春も同じように返してくれたけど
何故かクスクスと笑い声。
「なんだ、元気そうじゃん。」
「良かった〜」なんて。どこかいつも通りの春に対し、私はようやく再会出来たことに対する喜びや今まで我慢してきたものが一気に溢れ出る。
急ぐように春の顔に手を当ててグッと距離を詰めた。
身長の高い彼を見上げて、見つめて。
その綺麗な瞳に今私が映っていること
「春だぁ……」
それが嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
今の私、どんな顔をしているんだろう。
自分でも分かるくらいに安心しきった声だった。
今ここが人気のない場所だったら
私は春に噛み付くようなキスをしていた気がする。