【続】酔いしれる情緒


……と、まあ。


例え感情が高ぶっていたとしても、
一般常識は忘れず、ちゃんと我を保っていたのだが。



「えっ、なに、わっ…」



私と違って、

それを出来ないのがこの男。


行き交う人が沢山いるというのに、

春は私をまた同じ椅子に座らせると

私を囲むように椅子に両手をついては──────キス。


しかも、ちゃんと、唇に。



生憎誰にも見られていなかったみたいで
騒ぎにはならなかったけど

そうだとしても、



「……こんな所でするのはどうかと思う」

「でも拒否らなかったじゃん」



ちゃんとその時間は与えたよ?


なんて言われてしまうと ぐうの音も出ない。


だってその通りだから。

私にキスする前、春は一度ピタリと動きを止めた。寸止めってやつだ。


きっと拒否られることを想定してワザと止めたんだと思うけど、

久しぶりに会って、久しぶりに顔を見て。
久しぶりに触れることが出来て、久しぶりに触れてくれて。

ずっと会えなかった分、最高潮に感情が高ぶっている中、外だからって理由だけでキスを拒否する人はいないと思う。



「もう1回する?」

「しない。」



さすがに2回目はしないけど。
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