【続】酔いしれる情緒
愛おしいものを見るみたいに私に微笑みかけると、あごに手をかけられ、顔を持ち上げられる。
「もちろんだよ。」
瞳に映るのは酷く整った顔で不敵に笑ってみせる彼と────そんな彼の後ろ、大きな大きなスクリーンに映る一ノ瀬櫂の姿。
それは見上げなければ全体が見えないほどの大きさだった。
こんなにも大きく彼の活躍を目にすることが出来たというのになんで気づかなかったんだろう。
(……ああ、そうだ。)
俯いていたから気づけなかった、か。
彼がこの場所でちゃんと結果を残せているのかどうか、なんて。考えなくても分かりきっていたことなのに。
(春は……知ってるのかな。こんなにも大きく貼り出されていること)
まあ、知らないわけないよね。
ここを集合場所にしたのもそれが理由だろうし。
きっと本人も自覚していると思う。
私達のそばで女の子達がスクリーンに向かって写真を撮ってるところだとか、私がまるで名画を鑑賞しているかのようにそのスクリーンを見つめていることだとか。
ビックリしすぎて数秒程固まってしまった私を見て、春はまた不敵に笑うんだから。
「凛」
呼ばれて視線を彼に戻す。
「凛は俺を見て。」
色素の薄い綺麗なその瞳が私を強がることなどできない弱さへと誘い、酔わせていく。
その魅惑的な瞳に囚われた私は
「もう春しか見えないよ」
あっという間に彼の世界へと取り込まれていくのだ。
酔いしれる情緒
[完]