【続】酔いしれる情緒
番外編 帰国しました。


初海外旅行から1週間。


新婚旅行はあっという間に終わり、長時間飛行機に乗って日本に着いたのは夕方。



「お腹空いたね〜」



私の隣には春がいて、お互いキャリーバッグを転がしながら他愛もない話をする。



「帰ったら何食べたい?なんでも作ってあげるよ」

「んー…あっ!あのパスタ食べたい」

「パスタ?」

「あれだよ、あれ。凛が初めて俺に作ってくれたやつ」

「初めて……あ。もしかして、しらたきの?」

「そうそう!久しぶりに食べたい!」



日本に帰ってきて久しぶりのご飯がしらたきでいいのか気になるところだけど、メガネの奥にある瞳をまるで子供のようにキラキラとさせるから本当に食べたいんだろうなーっと実感。



「分かった。でもしらたき家に無いからスーパー寄っていい?」

「もちろん!」



その後は駅近くにあるスーパーに寄ってしらたきを何個か買った。


その途中で見知らぬ人達に一ノ瀬櫂だと気づかれてはちょっとした追跡劇が繰り広げられ、タイミング良く捕まえたタクシーになだれ込むように乗り込んだ。



「凛っ、大丈夫?

………って、何笑ってんの」



焦って髪がボサボサな春に対し、私は不思議とこの状況にクスクスと笑ってしまう。



だって


追われて、追いかけられて。

黄色い歓声を浴びて。

一定期間彼の姿がなかったとしても、その人気は衰えていないこと。


ちょっとばかり気になっていたことだから
なんだか今それを実感出来て凄く嬉しかった。



「…ううん、なんでもないよ。
こういうの久しぶりだな〜って思っただけ」

「楽しんでくれてるならいいけど…」



「これでも変装してるつもりなんだけどなー」と。顔は物理的に隠せたとしても、オーラは隠しきれていないことを春は知らないんだと思う。あと身長も。



(それから……私が一ノ瀬櫂のファンになりつつあることも、きっと知らない)



まあ、言うつもりもないけど。


あれだけ一ノ瀬櫂は好きじゃないって言ってきたのに春がそばにいない間にファンになったなんて……バレたらバレたでまた厄介。

というか、いじってくるだろうし絶対に言わない。

< 219 / 246 >

この作品をシェア

pagetop