【続】酔いしれる情緒


近くまでやってきた春は眉間にシワを寄せていて、綺麗な髪がキラキラと水中を舞う。


その光景に見惚れてしまう私に対して、春は私の腕をしっかり掴むと、そのまま2人して海面に浮上した。


浮上すると同時に私達は大きく息を吸う。



「っ…春、?」



びっくりして、言葉が出てこない。


目の前にいる彼はTシャツを着たままだし



「溺れているんじゃないかと思って、焦った、」



その様子は言われなくても見て分かるくらいだ。



「あー…良かった…」



そう言って私を腕の中におさめる春。


その声は酷く安心した声色だった。



「ごめん…心配かけて。
大丈夫だよ、ただ潜ってただけだから」

「…うん」

「それよりも……大丈夫?海…怖いんだよね?」



にも関わらず、彼は今海の中にいる。



ポタッと彼の髪から滴り落ちる水滴が肌に触れた。

顔が見えないからと、私は彼の顔にかかった髪を払い除ける。


苦しげな表情を浮かべる春に、早く海から上がらないと、と焦ったが。



「凛がこの世からいなくなる方が怖いよ」



怒っているのか、それとも呆れられてしまったのか。


いつもと違って強い口調の春に私は何も言えなくなる。



「とりあえず上がろう。
橋本さん達がバーベキューの準備始めてる」

「うん…」



春に腕を引っ張られながら砂浜の方へと向かう。


引っ張る力がちょっと痛くて顔を歪めてしまうけど、



(怖いのに……わざわざ助けにきてくれた…か。)



濡れたTシャツ姿の春を後ろから見つめ、この状況に少し嬉しくなってしまったのは春には秘密。
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