【続】酔いしれる情緒
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「あれ……春は?」
バーベキューを終えて、片付けを済ませた後。
さっきまで近くにいた春がいなくなった。
「どこかで海を眺めてるんじゃないか?
アイツ、海を見るのは好きだからなー」
橋本にそう言われ、私は近く散策。
橋本と由紀子さんはレジャーシートに寝っ転がって少し休憩するみたいだ。
そのままイチャイチャしないといいけど。
(………あ。いた。)
荷物を置いてある拠点から岩陰に隠れた場所に彼はいた。
「勝手にいなくならないで。」
そう声をかけると、春は綺麗な顔をゆっくり私に向ける。
「凛の方こそ、勝手にいなくなんないでよ」
「だからあれは……」
怒っている様子は無い。
けど、まだ、春はさっきの事を引きずっているらしい。
私はそんな彼の隣に並ぶ。
「………私ね、ああやって水中に潜って海面を見るのが好きなの。何の音もなくて、1人だけの空間のような気がするから。
小さい頃は両親によく引っ張り上げられたりもしたんだけど、その度に「あーもう終わりかー」なんて思ってた。もう少し堪能したかったなーって。
そのくらい、好き。」
「…じゃあ俺余計なことした?」
「あー…違う違う、そうじゃなくて」
手を隣にいる彼へと伸ばして
指先をゆっくり絡める。
「逆に嬉しかった。海が怖いのに、そうだとしても心配して来てくれたこと。
私、本当に愛されてるんだなって思った」
潮風が吹き、その風が私達を優しくなでる。
「大好きだなーって、思ったよ。」
こんなにもハッキリと好きの文字を伝えるのはいつぶりだろう。
春は変わらず伝えてくれるのに、私は言うのが照れくさくていつも曖昧にしてた。
「水中に潜って見える景色よりも、こうやって春と見る景色の方が好きだから」
「…………………」
「来てくれてありがとね、春。」
言葉にするのは、こんなにも簡単なのに。