【続】酔いしれる情緒
「キミに実力があるから誘ってるんだよ」
「ないです…私に実力なんて。だからこういう結果になってしまったんです。私にはこの業界が向いてないから……」
「おい。」
「っ、」
ああ、また。
また怒鳴られる。
橋本さんの口調が少し変わって、私は無意識にも身を固くする─────が。
「人一倍努力していた人を俺が見逃すわけないだろう」
「っ……、…え?」
「俺はこれでも社長だ。人を見る目は大いにある」
「…………………」
「それでも否定するつもりか?」
怒鳴られる、かと思えば。
怒っているような口調であっても、橋本さんが私にくれる言葉の数々は、私を肯定するものばかり。
「この業界は誰かが1人頑張ったところで成り立たない。協力し、力を合わせて作り上げるからこそ良い作品が生まれるんだ。
そんな中たった1人が走り回り、どう考えてもおかしい仕事量を1人でこなして、挙句の果てには実力のあるキミがこの業界が向いてないと自分を攻める。
分かるか?それはキミ自身が悪いわけじゃない。キミをそんな考えにさせた、あの会社自体が悪い。」
橋本さんは真っ直ぐな目を私に向けてくれる。
「誰がなんと言おうと、俺がキミの実力を認める。」
この時点で既に私の返事は決まっていて
「だからもう少しだけこの業界で働いてみないか?」
これからの人生、
私はこの人について行こうと思いました。