【続】酔いしれる情緒
それからの日々は怒涛の毎日でした。
春くんは想像を遥かに超えて忙しく、ほぼ休みはなし。
毎日何かの撮影や仕事がありました。
もちろん橋本さんは休みを取るよう勧めていましたが、春くんは疲れた様子を一切見せず、平然とした顔で淡々と仕事をこなしていました。
私はというと、そんな忙しさの中、橋本さんのフォローもあって仕事は順調。
例え忙しくてもあのブラックな日々とは全く違い、やりがいや楽しさを感じていました。
そんなある日のこと。
「今日寄りたい所あるから送らなくていいよ〜」
春くんにそう言われ、私は久しぶりに1人で帰ることに。
急に1人になるとちょっと寂しさもあるけど……まあ仕方がない。
音楽でも聴いて帰ろうとイヤフォンを探している最中、テレビ局を出る少し前で私はとある人に捕まった。
それは前の会社の上司。
同じ業界の人だからいつかは会うだろうと思ってはいたけど……このタイミングでなんて。
「あれ、立花じゃん。お前辞めたんじゃなかったのか?」
「……今は別会社で働いてます」
「へ〜 スグ病むヤツでも働き手はあるもんだな」
「………………」
「で?どこの会社?どーせろくでもない会社なんだろ?名前聞いても知らなかったらごめんな〜」
この人と喋っているとあの酷く疲れた日々が嫌でも脳裏に浮かんで吐きそうになる。
言い返したくても言い返せない。
怒鳴られるのが、怖い。
早くイヤフォンを付けて逃げ出したい。
やっぱり同じ業界で働くのは辞めた方が良かったのかな。
この一瞬の出来事で心も身体も精神的に崩れてしまいそうになった。が。
「私の部下に何か?」
「!!」
そんな状況下でも
橋本さんの声だけは私の中にスっと入ってきた。