【続】酔いしれる情緒


「ん……」



心地良い眠りからフッと意識が浮上すると、隣には橋本さんの姿が。

久々の休日。どうやら私はソファーの上で眠ってしまったみたいで。



「起きたか」

「あっ…すみません、寄りかかってしまって…」

「俺がそうしたんだ。」



そう言って私の頭を優しく撫でる橋本さん。

その片手には本が1冊。



「その本…」

「ん?ああ、春に勧められてな」

「春くんが主演を務めた映画の…?」

「そ。どうやら映画よりも原作の方が面白いみたいでな」

「あー…確かにそうですね…。映画は映画なりに話が違って良かったんですが……やっぱり詳しく記されている方が感動するというか……」

「春もそう言っていたよ」



優しく微笑む橋本さん。


声も、その笑みも、
今は私が独り占めしてる。



寄り添う身体をまたもう少し近付け、私は橋本さんのぬくもりをもっと深く感じたいと思った。



「……でも、春くんの演技は今まで以上に良かったですよ。原作の雰囲気に合わせた演技。なんだかもう、ストーリーよりも春くんに目を奪われてしまうような…」



役者として本当に素晴らしい人だと思う、と。


そう伝える前



「アイツをやけに褒めるな。好きなのか?」



橋本さんがパタリと本を閉じた後、私の方に顔を向けては意地悪な顔をした。



「ち、違います…!
春くんは役者として尊敬しているだけで!
私が好きなのは……!」

「私が好きなのは?」

「っ………」

「由紀子」



名前を呼んで


「言え」と言わんばかりに私を見つめて



「誰が好きなんだ?」



優しく触れてくれる橋本さんに
堕ちない人はいないと思う。

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