【続】酔いしれる情緒
そんな表情を見せられてしまうと断るにも断れず、何度もとっかえひっかえした服の山を背景に言われた通り着替えて鏡の前でくるりと回ってみる。
「………やっぱり無しでしょ」
スカートなんて何年ぶりだろうか。
しかも膝上ギリギリラインの丈なんて。
足がスースーして変な感じ。
もはやミニスカートじゃない?これ。
(……無し無し。見られる前に着替えよう)
「終わったら言ってね」と言っていた春だが、あの後橋本から着信があったみたいで少しだけ離れると言っていた。
どこに行ったのか分からないけど、見られる前に着替えられるし好都合だ。
鏡から視線を逸らしてスカートのチャックを下ろそうとした───時。
『ねぇ、聞いた!?
今この辺りに有名人いるらしいよ!』
「!?」
急に聞こえてきた大きな声。
外から聞こえるそれはあまり有難くないものだった。
(まさか、春のことじゃ…!)
確かに、今日の春は普段と違って変装が緩かった。
マスクとメガネは付けているものの、帽子は無し。
そして一際目立つ背丈に、モデル並みのスタイルの良さ。一ノ瀬櫂の大ファンならたぶん気づけるはずだ。