【続】酔いしれる情緒
話し声は聞こえなくなったが、まだ近くにいるはず。
当の本人はそれに気づいているのかいないのか
「着れた〜?」
帰ってきた春に開けられた試着室のドア。
私の動きがピタリと止まる。
「終わったら言ってね」という言葉は一体なんだったのか。声を掛けてないにも関わらず開けたぞコイツ。
だが。怒るよりも先に私は慌てて春の腕を引っ張った。
「えっ。」と小さく声を上げた春だけど、説明よりも先に隠さなければならない。
騒がれる前に、コイツの姿を。
「凛どうし…」
「シッ!」
壁に押さえ付けるような感じで春の口に手を当てた。
「たぶんバレてる、一ノ瀬櫂がいるってこと」
「………………」
「近くにまだいるかもしれないから──」
視線をドアの方に向ける。
声は……聞こえない。どこかに行った?