【続】酔いしれる情緒
「まずお前は昨日の分の仕事を終わらせような」
「うわっ。」
私にキスしようとした春が橋本に首根っこを掴まれるとズルズルと引きずられていく。
「あー…、ほんと邪魔…」
「ほらさっさと用意してこい。遅刻するぞ」
「はいはい。了解でーす」
そのまま自分の部屋へと放り込まれた春はどうやら仕事の準備をさせられているらしい。
……私もそろそろ準備しないと。
同じく部屋に戻ろうとすれば今度は私が橋本に捕まった。
「朝からお騒がせしてすみませんね」
「いや、別に…」
「安藤さん。つかぬことを伺いますが」
「はい」
「本当にアイツでよかったんですか?
もっと他にいたでしょう、あなたに見合う人が。」
「見合う見合わないとか気にしてません。
見ての通り本当に面倒なヤツだし、まともな人なんて他にいっぱいいると思います。
けど、そうであっても
私は彼じゃないとダメなんです。
春だから、この先の人生を捧げられる。」
考えることも止まることもなく
ハッキリとそう告げれば、
あの橋本が無邪気に笑った。
「まあ既に決まったことだし。あなたにとやかく言う必要もないんで、もう行きますね。
春には下で待ってると伝えてください」
「分かりました」
「では。」
最後に橋本は
「これからアイツをよろしくお願いします」
父親のような言葉を私に告げてこの家を後にした。
由紀子さんもそのあとを追うようについていく。
たったこの一瞬で本当に父親なんじゃないかと錯覚してしまいそうになった。