【続】酔いしれる情緒


「観たくないの?」



こくり。頷く。



「俺出てるよ?」

「………………」



そう言えば来てくれるとでも思ったのか。


前は来て欲しくないって言ってたくせに、今じゃ参観に来て欲しい子供みたいな。どこか寂しげな表情を浮かべる春。



観たくない、は、もちろん嘘。


お気に入りの物語がどう実写化されているのか。
気になるし、観てみたい。


だけど、その物語の内容を知っているからこそ、観たくないのも事実で。



「アンタが出てるから嫌なの」



目線はそのまま

タブレットから動かすことなく言った。


私が初めてこんな恋愛素敵だなと思えた小説の実写化。その主演には一ノ瀬櫂と、相手役の女の人がいる。


恋愛モノなのだから手を繋ぐシーンもあるし、キスシーンもあった。


それがどう映像化されているのかは分からないけど、今の私がそのシーンを目の当たりにしたら……きっと、醜い想いが溢れてしまう。



「俺が出てるから……?

…あ。そっか。
俺のことは好きだけど
一ノ瀬櫂のことは嫌いだったね」

「………………」

「それなら観たくないのも当然か」



そう言って勝手に納得する春。


……そういうことじゃないけど、まあそういうことにしておこう。


私以外の誰かと触れ合って欲しくないから仕事を辞めて欲しい、なんて。


こんな自分勝手で醜いこの感情を知られるのは、なんか嫌だ。

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