【続】酔いしれる情緒


「春」



部屋の扉の前で名前を呼ぶ。


するとスグにその扉が開き、こっちに向かって伸びてきた手が私の腕を掴む。


引っ張られると春の胸元に飛び込む形に。



「びっくりしたー…」

「橋本さん達行ったみたいだね」

「下で待ってるって」

「おっけー」



そう返事をしてから私をぎゅぅと抱きしめる春。



「でもその前にちょっと充電。」



首元に当たる春の髪がふわふわと柔らかくてくすぐったい。



「また離ればなれになるね」

「たった数時間だけでしょ」

「だとしても離れ難いよ」

「………………」

「今まで疎遠になってたんだから、もっと凛との時間がほしい。」



そう言われると「まあ確かに…」なんて思ってしまう。


たかが数時間。

仕事をしていればあっという間に過ぎ去る時間。


だけど、昨日やっと再会した春と離れるのは私もちょっと寂しい。



春のその広い背中に腕を回す。

さっき以上に密着した身体。

匂いも感覚も全て、春で埋め尽くされる。



「言ったそばからこんなことされるとさぁー…」



溜め息混じりの色っぽい声。


腰にあった手が後頭部に回されると



「離したくなくなるんだけど。」



くしゃり。私の髪を乱す。

鼓膜を刺激するその声にぞくりとした。



春は私を抱きしめながらするりと服の中に手を侵入させる。


背中に回した手は欲でいっぱいの春を引き離すのかと思いきや、その逆。


しがみつくみたいに指先をギュッと春の服に絡ませて、崩れ落ちそうな身体で縋り付く。



「は、る」



人を待たせているというのに、仕事が待ってるのに。



「凛」



その瞳に見つめられると


全てがどうでもよくなってしまうんだ。


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