【続】酔いしれる情緒
そう気がついたのと同時に心臓がドッと嫌な音を立てて
「なに…言ってんの…?
私、言ったじゃん…望むことは何も無いって…」
春の手を振り払うみたいに春の胸板を軽く押して距離を作る。
「あれは……あの時は、意識が朦朧としてたから意味わかんないこと言っちゃっただけ。
だから……ごめん、悩ませて。
本当になんでもない。気にしなくていいから」
春の目を見ながら真っ直ぐそう告げると
少しして、春の顔に笑みが戻った。
「そっか、分かった。」
ヘラっと笑ってみせる春。
春の演技にはいつも騙されてばかり。
だけど、笑顔だけは見抜けてしまう。
─────今のは偽りの笑みだってこと。
「…………うん」
そう気づいていながらも、私は気づいていないふりをする。
それが正しい判断だと思えたから。
春はきっと勘づいてる。
だからこそ、これ以上ボロが出ないためにも
早くこの話を終わらせたかった。
これ以上は知られたくない。
知ってほしくない。
例えこの想いに気づいてたとしても
どうか、知らないふりをして。