【続】酔いしれる情緒


手から滑り落ちたお箸が床に落ちると軽い音を立てた。


拾わなきゃ。

分かってるのに、動けない。

頭がボーっとする。



春は自身のお箸をテーブルの上に置いては
立ち上がってそんな私の横にやってきた。



「……こんな話聞きたくなかったよね。ごめんね。」



なんで謝るの?

話してって言ったのは私なのに。

言いたくない。そう言った春に、私がお願いした。春はただ私に言わされただけ。

何も、悪いことは……してない。



春はそのまま落ちたお箸を拾うと新しい物と取り替えてくれた。


だけど、なんでだろう。

口から『ありがとう』の言葉が出ていかない。


過去の話なのに、そう……分かっているのに。



(関係…持って、るんだ…)



嫌だった。


身体が冷えて冷たくなるくらいにショックだった。


演技でもなく、俳優の一ノ瀬櫂でもなく。


春として。

春の手で彼女に触れたんだと思うと
胸が張り裂けそうで苦しくて───…



「……凛」



春の手が、私の頬に触れる。


いつもは温かい手をしている彼。


なのに今は彼からぬくもりが全て消え去ったような、そんな冷たい手。



「こんな俺でも…変わらず愛して」



私はその手の冷たさに顔を歪めた。
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