【続】酔いしれる情緒


「っ……、……?」



あ、れ…?



「…………春?」

「………………」



名前を呼ぶだけでも唇が触れてしまいそうな。


そんな距離で

時が止まったみたいに


ピタリ。

春の動きが止まった。



もちろん。

私は止めたりなどしていない。

ちゃんと受け入れようとした。


………というか。
して……欲しかったし。


その欲があったからこそ、
素直に『男』だとハッキリ言った。


そう言えば……春のことだ。

嫉妬してくれるんじゃないかって。

いつもみたいに何も考えられなくなるような、そんなキスをしてくれるんじゃないかって。



そう計画的に考えていたわけだけど

残念ながらその欲は叶わず、



「お湯、沸いてるんだっけ」

「あ………うん」

「じゃあ早く入らないと冷めちゃうね」



強引に迫ってくることも
強引にキスされることも無くて。


左手を掴む手も、後頭部に回された手も。


それ以上引き寄せられることはなく、ゆるりと離される。



────そう。解放されたのだ。
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