無意識ストレイト



_____彼方くんのことが好きだった。

人をこんなにも好きになれるんだ、と自分でも驚くほどに、好きだった。



はっきり、恋に落ちた瞬間があった。

放課後、忘れ物を取りに教室に戻った時のこと。


窓際の席、ぽかぽかな陽に当たりながら机に突っ伏していた彼方くんがいた。


どうしてか、ほとんど話したこともない彼方くんが気になって、彼の寝顔をのぞいた時に。




「……好きだ……」




私に向けられた言葉ではない。

それどころかただの寝言でしかないのに。



彼方くんが夢の中で無意識に放った“私ではない誰か”に向けた言葉に、
一瞬で心を奪われて、私の中に“好き”を落としていった。



直後、ゆっくり目を開けて、まだ寝ぼけたままの、目を細めた彼方くんにストレートに捉えられて、一直線に私だけを見て、何も言わずにもう一度目を閉じて。




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