好きよりも、キスをして


――その人と一緒に帰らないで。静之くんの彼女は私でしょ。



今思えば、何という恥ずかしい内容を送ったんだって思った。現に、あの静之くんが、メールを見て少し驚いた顔をしていたくらしだし。

だけど、静之くんは行ってしまった。枝垂坂さんに手を引かれて。



「(ま、待って……ッ!)」



急には出ない私の声は、自分の口から外に出ることはなかった。私の焦った様子を見て、沼田くんが「どうしたの変な顔してる」と指摘してくる。

あぁ、だけど。

そんなことはどうでもいい。


沼田くんの言葉は、今の私の足かせにはならない。



「(行かなきゃ!)」



気づいたら、走っていた。教室を飛び出して。沼田くんの「おい!?」という声にも振り向かないまま。

走って走って、二人の後を追いかけた。そして、追いついた。

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