好きよりも、キスをして
「(はぁ、はぁ……あ、あれ?)」
走っていると、私が引っ張っていたはずなのに、いつの間にか静之くん引っ張られていた。
立場が逆転している。
それは、私が顔を下げた時の、ほんの一瞬の事だった。
「(静之くん……)」
広い背中。高い身長。枝垂坂さんには、静之くんが「何を言っても傷つかない、心も体も大きい人」にでも見えているのだろうか。
そんなわけない。
静之くんは、そりゃ夢の中ではダラダラしてるし、何に対しても無気力っぽくて、性欲オバケみたいに見えるけど……でも、違う。
違うの。ちゃんと見て。
「ま、って。息、しんどく、て……」
「……」
「静之、くん……」
「(……なに?)」
ちゃんと見て。枝垂坂さん。
静之くんの目に宿る、光の儚さを。きちんと、その目で見てほしい。