好きよりも、キスをして
「(今の静之くんは、氷細工だ。全身が氷で出来た静之くんだ)」
ふいに、そんな事を思った。
「(撫でたら熱で溶ける。近づいても熱気で溶ける。かといって、放置してても暑さで溶けてしまう。静之くんは、繊細な氷細工だ)」
さっきまで青いノートを使って「静之くんに仕返しが出来た」なんて笑っていた私が、態度を百八十度変えるのも変な話だけど。
だけど、そんな事を考えていたからか。
体と心に、無意識に力が入ってしまっていた。静之くんからジュースを渡された時に手が滑り、地面をコロコロと転がってしまったのだ。
「あ」
「(……いいよ)」
大きな歩幅で、静之くんはジュースに近づき、拾い上げた。
私のせいで転がったから私が行こうとおもったけど、静之くんに手で「ストップ」のジェスチャーをされると、迂闊に拾いにいくわけにもいかない。
静之くんは今、近づきすぎても遠くにいすぎてもいけない存在だ。
「(だって静之くんは今、繊細な氷細工なんだから)」
改めて、自分にそう言い聞かせた。