好きよりも、キスをして
「ごめん、ありがとう……」
「(どういたしまして)」
「あ、お金!」
慌てて財布を出そうとすると、静之くんは私の手を掴んで、フルフルと頭を左右に振った。
そして、ゆっくりと。私が読み取れるくらいの速さで、同じ単語を何度も口にした。口パクで読み取れるか自信はなかったけど、それでも分かった。
だって、それは、夢の中で私に衝撃を与えた言葉だから――
「彼女って、そう言ってる?」
「(うん)」
「彼女だからお金は払わなくていいって……そう言ってくれてるの?」
「(……うん)」
少しだけ照れ臭そうに頷く静之くん。
サラサラした黒髪が、風に舞って揺らめいた。その時に、髪の隙間から静之くんの目が見えた。黒い目。綺麗なくらい、漆黒の色。
その吸い込まれそうな黒と、瞳がぶつかる。
「っ!」
私は途端に恥ずかしくなって、静之くんから再び受け取ったジュースを「ありがとう、飲むね!」と勢いよく開けた。