好きよりも、キスをして
すると沼田くんは「あのさぁ」と腕を組んで私を見る。私の顔を見るのも嫌そうな態度だな……。
「澤田さ、授業中あてられたら答えてよ。なんで答えないんだよ。澤田が答えなかったら、高確率で俺のとこに順番が回ってくるんだよ」
「(あ、そういうことか……)」
つまり、私の尻拭いを、沼田くんがしてくれてるんだ。そして沼田くんは、その事に怒っている、と……当たり前か。
もちろん、先生が悪いわけじゃない。もちろん、沼田くんが悪いわけじゃない。悪いのは――私。
「いい加減、迷惑してるんだよ。バカみたいに簡単な問題も答えられないで……。澤田、なんのために授業に出てんの?」
「……」
「ここでも何も言わないの?マジなんなわけ?澤田」
「はぁ」とつくため息は、さっきの先生よりも重く深い。その声の調子で、沼田くんは続けた。
「授業がダルいんなら出ないで。保健室に行ってボイコットしなよ。ってか、もし本当に答えが分かんないんなら、ちゃんと家で勉強すれば?」
「……っ」
吐き捨てられた鋭利な言葉たちは、ナイフへと姿を変えて、私の胸にダイレクトに刺さった。だけど頭は冷静なもので、「これが沼田くんとの初めての会話かぁ」――とか考えている。