好きよりも、キスをして
バカみたいな事で、制服を濡らした高校生二人。メロンソーダ味のジュースだったから、独特の甘い香りが、二人の間に充満していた。
緊急事態なはずなのに、その匂いを嗅いでいると、不思議と可笑しくなってくる。
さっきまで静之くんの事を「氷細工」なんて思っていたけど……なーんだ。
氷細工な彼自身は、自分が傷ついて壊れる事も恐れずに、大きな体を揺らして笑っているのだ。
「(変に壁を作っていたのは、私の方だったかな)」
枝垂坂さんの事を悪く言っていた自分を咎めたい。私も彼女と同じ立ち位置で、彼を見てしまっていたのだと。
こっちから歩み寄らなければ、静之くんは振り向いてくれないと思う。なら、歩み寄ってみたい。
私は、静之くんの事がもっと知りたい。
だって私は、静之くんの「彼女」だから。
「聞いても、いい?」
改めて口にした私を見て、静之くんがピタリと笑うのをやめる。
だけどギクシャクして空気になるわけでもなく、静之くんは、まるで観念したような笑みを浮かべて、肩をちょいと上げて「どうぞ」とジェスチャーしたのだった。