好きよりも、キスをして

「さっき枝垂坂さんが静之くんに話している内容を聞いちゃったんだ。その……”聞こえないからちょうどいい”って言った時」

「(ふぅん)」

「それで、その後の静之くんを見た。笑ってた……でも、悲しそうだった。とても」

「……」



静之くんは何も言わなかった。というか、何も反応を示さなかった。だけど、ここで止めてはだめ。

私は、自分の濡れた制服を、静之くんの濡れた制服に近づけた。そうして、手が、また繋がれる。



「私は、静之くんには、あんな顔をしてほしくない。困った時は困った顔をして、面白い時にはさっきみたいに歯が見えるくらいに笑って……。ありのままの静之くんを見せてほしい」

「……」

「だけど、静之くんが、笑顔を絶やさないのには、きっと訳があると思って……。だから、今は、それを聞きたい。その理由を聞きたい。

ねぇ、静之くん。

どうして教室の中でも、あんな暴力的な言葉の前でも、ニコニコ笑っているの?」

「……」

「む、無理にとは、言わないけど……」

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