好きよりも、キスをして
「(朱音)」
「え、んぅッ!?」
チュッ
なんて可愛いリップ音なんてしない。小鳥がついばむような、とか。そんな爽やかなもんでもない。
静之くんは、自分の中の欲望を、これでもかというほど、私の唇に押し当てて来た。
角度を変えて、強さを変えて。
私は、一体いつ息をすればいいんだろうと疑問に思う暇がないほど。
ここが外という事も忘れて、私は彼を押し返すこともなく、ただ黙ってそれを受け入れていた。
静之くんが、私にキスをしている――
そんな驚きの事実が、私を蝕む。さっきまで静之くんの色んな事を考えていたけど、今は目の前の静之くんだけで手いっぱいだった。
チラリ。
我ながら無謀だと思ったけど、呼吸が満足にできず意識が朦朧とし始めた時に、薄目を開けて静之くんを覗き見た。
すると、そこにいた彼は、教室の中で見た彼とも、夢の中で見た彼とも違っていた。