好きよりも、キスをして



「……なんでしょう」



さっきの事があるから、油断大敵だ。彼のテリトリーに入ると、また、いつ唇を貪られるか分からない。


ツツツと、つま先を少しだけずらし、気づかれないように、ゆっくりと彼と距離をとる。

すると、めざとくも発見した静之くんは、まるで呆れたようにため息らしきものをついて、見上げて空を見た。



こっちがため息をつきたいんだけどな――



と私が思っているのはどこ吹く風なのか。

静之くんはいきなり立ち上がって「バイバイ」と私に向けて手をヒラヒラさせた。



「え、帰るの?」

「(うん)」

「……そう、じゃあ。また」

「(あいよー)」



キスが終わったら満足した、ってか?いや、そうじゃないか。

だけど、あまりにも唐突過ぎる。一体、最初から最後まで、静之くんが何をしたかったのか、皆目見当もつかない。


だけど、まあ、いいか。



「続きは、夢の中で――って事よね?」



そう、私たちの一日は、これで終わりじゃない。だから、じっくり話を聞こう。夢の中で。

そして「なんで学校でニコニコしているのか」、「なんでキスしたのか」という事について。



彼の口から詳しく聞こうと思う。


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