好きよりも、キスをして

そんな殺伐とした雰囲気の中――

こんな状況でも助けてくれる人はいない。むしろ「入学早々ケンカ?」とか囁き合って、皆して高みの見物だ。


自分で何とかしないといけない。


震える足を必死で隠しながら、さっき沼田くんにバカにされた頭を使う。



「(ごめんなさいって言えば、沼田くんは許してくれるのかな……)」



いや、それじゃあ許してくれない気がする。「喋れるじゃんウザ」って、またナイフみたいな鋭い言葉が返ってくるんだ。


それで傷つくのは……私。



「(また傷つくのは、嫌だな。どうせ傷つくなら、謝りたくない……)」



そんな本末転倒な考えをし始めた――その時だった。


沼田くんが「あ?」と声を出す。


私は俯いていた顔を上げると、沼田くんの後ろに人影が見える。どうやらその人が、沼田くんの肩を叩いたようだった。



「(え、あ……ウソ……っ)」



少しだけ体をずらす。

そして見えたのは――静之くんだった。


静之くんが沼田くんを、眉を下げて柔らかい笑みで見ている。うんうん、と、優しい笑みで頷きながら。

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