好きよりも、キスをして
「え……」
風船で小突かれたような、柔らかい衝撃が頭に加わる。
え、今――
静之くん、私のことを好きって言った?私の事を?好き?
「(そんな素振り、今までなかったから……そんな突然、言われても!)」
ボボと、一気に着火した私の顔の熱は、テーブルを挟んだ静之くんへと漏れてしまう。すると静之くんは、またお腹を抱えて笑い「これだから恋愛初心者は」と、本日二度目のセリフを言ってのける。
「お前の真っすぐな所が好きって言ったんだよ。それ以上はねーよ」
「わ、わか……てるよ……」
そりゃ、そうか。私の全てが好き、なんて。そんな事ないか。
所詮、彼氏彼女の真似っこをしているに過ぎない私たちだもんね。
頭では分かっていたつもりだったけど、お前の全部を好きじゃないと言われた事に、少なからずショックを受けていたらしい私。見かねた静之くんが「まったく」と頬杖をついてため息を漏らした。
「しょーがねーなぁ。俺がお前の、その恋愛初心者脳を直してやるよ。」
「え、な、直るの?」
「そりゃ、直るさ」
静之くんはニヤリと笑う。
そして、テーブルをひょいと。長い脚で一足飛びをして、私のもとへやってきた。
ギシッ
ソファの軋む音さえも、今の私には起爆剤で。これ以上、何かに反応しているのを見られるのが嫌で、パッと両手で頬を覆う。
だけど、私の隣に並んで座った静之くんを前に、その手は通じない。私は、赤子同然。
今は完璧に、静之くんのペースだ。