好きよりも、キスをして

「現実の俺はさ、喋れないわけじゃん?」

「うん、そうだね」

「なぜかお前は、俺の口パクが通じるみてーだけど」

「うん、そうだね」



お互い不思議なことと理解しているのか、小さな笑いが零れる。

静之くんは続けた。



「喋れない俺が、喋れる皆みてーに振る舞ったら、どうだよ。

自分がイライラしている時に、喋れなかったら。イライラした内容を話せないまま、なんで俺が怒ってるか他人に理解されないまま。

そして時間が過ぎていく。その時間を経て、皆は俺を避けるようになる。仏頂面した喋れねー奴って」

「そんな、」



そんなことはない――と言いかけてやめた。

静之くんの話しぶりからして。その話は、彼の想像の世界ではないかもしれないと、そう思ったからだ。

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